2017年4月6日

 

個人事業者だからといって、会社のような記帳義務が免除されているわけではありません。個人事業者には個人事業者の特性があり、その特性が個人事業者独自の記帳方法やルールを生み出しています。

 

●個人事業は記帳が気楽

 

ある意味で正しいかもしれません。なぜならば個人事業者で白色申告の場合、貸借対照表の作成が義務付けられておらず、複式簿記で記帳する必要がないので、「仕訳」「借方・貸方」という概念をマスターする必要がないからです。なお、迷信的に信じられていることですが、個人事業者の場合は税務署と「交渉」し推計値で税金が決まるということです。はるか昔そんな時代もあったそうですが、現在はそんな方法では税務署から大目玉を食らいます。

 

法律は個人事業者を「会社の簡略版」と位置付けしているわけではありません。また、個人事業者に「粗雑さ」を許しているわけでもありません。この点を、十分認識しておく必要があります。

 

●個人事業者特有の勘定科目

 

個人事業者には会社にはない特有の勘定科目があります。以下がその典型ですが、これを理解し使いこなすのは案外難しいです。

 

1.事業主貸

個人事業者が経営者取り分(会社でいう役員報酬)を引き出した場合、「事業主貸勘定」という「資産勘定」で処理し費用に含めません。この勘定科目は、事業主が事業とは無関係な費用を引き出した場合も使用します。

 

2.事業主借

事業主が資金提供した場合は、「事業主借勘定」という「負債勘定」で処理します。

 

3.元入金

会社のように資本金の変動を登記しなくとも資本金(元入金)が変動します。翌年に「当期利益」は元入金の増額、「事業主貸勘定」は元入金の減額となります。事業主借勘定を元入金とすることもあります。

 

4.専従者給与

親族従業員への給与は「専従者給与」として処理します。

 

●事業用の預金口座

 

個人事業者の場合、名義は一つ(個人名義)しかありませんので、私生活との線引きが必要です。そこで、必要となるのが事業用預金口座です。売上代金の入金、仕入代金や諸経費の支払いはその口座で行うとともに、事業主取り分(生活費)の引き出しを明瞭な形で残してください。事業用口座とプライベート口座の区別がない場合は、記帳が煩雑になるだけでなく、税務調査の際に調査対象が拡大されてしまいます。なお、事業用預金口座の名義は「山田商店山田一郎」のように、個人名の前に屋号をつけるのが通常です。

 

●生命・地震保険料

 

これは所得控除です。所得控除は事業所得とは無関係ですので(給与所得者であるサラリーマンにも認められます)、帳簿に記帳する必要がありません。事業用の預金口座からの振替になっている場合は、必要経費とはしないで「事業主貸勘定」としなければなりません。

 

国民健康保険料・国民年金保険料、医療費も、所得控除ですので生命・地震保険料と同じように処理しなければなりません。

 

●自宅兼事業所

 

私的費用との区分が困難となるケースが多発します。その典型は次のとおりです。

 

・電話代

・水道光熱費

・自宅建物の取得費その他(住宅ローン金利、修繕費、固定資産税、火災保険など)

・車両費用

 

いずれも事業に必要な割合を合理的に算出し、それ相当の金額を必要経費とすることができます。記帳方法としては、支出時に費用科目と事業主貸勘定とに区分けする方法(事業用の資金から支出している場合)と、決算時に事業部分を一括して必要経費とする方法(私的資金から支出している場合)があります。

 

●個人事業者の記帳の実態 

 

個人事業者は記帳が気楽と信じられていることは否定できません。しかし、その原因は、個人事業者は小規模であるため会計事務所が関与していないことが多く(会計事務所報酬が負担できない)、「水入らず」の経理をしていることによります。自己流の記帳をしている個人事業者が多く、間違った処理を長期間していることがあります。

 

税務調査は、毎年、全事業者に対して行われることはありませんので、ミスが長期間指摘されずまとめて追徴課税されることもあります(さかのぼって税務調査が行われる最長期間は7年です)。毎月、所得を5万円過少に計算しているとすれば、年間で60万円所得を過少に計算していることになります。このミスが7年間続けば420万円です。所得税の税率が10%として追徴税額は42万円です。これに過少申告加算税や延滞税、さらには住民税や事業税も追徴されますので恐ろしい金額になります。

 

やはり、「個人事業者は気楽」という先入観は持ってはいけません。

 

●個人事業者の典型的記帳方法

 

現金出納帳や預金出納帳など一切存在せず、「青色申告決算書」や「収支内訳書」(ともに申告書の添付書類)の損益勘定科目の合計金額を領収書などから集計しています。そして、その集計「メモ」が帳簿です。貸借対照表は作成しません。

 

確かにこの方法でも損益(所得)は把握できますが、重複や漏れが発見できません。やはり、現金管理(現金出納帳)に基づいて損益を把握することが必要です。なお、将来的に「法人成り」(個人事業から会社に成ること)を考えている場合はこの方法は絶対にやめてください。法人成り後にカルチャーショックを受け、最悪の場合は「個人成り」する(会社を個人事業者に戻す)羽目となります。