2022年10月14

 

相続と贈与に関して会計事務所(税理士)に寄せる期待は大きいです。しかし、忘れてはならないのは、会計事務所の役割は税額計算と申告(さらに適度な節税)であるということです。会計事務所にそれ以上の期待を寄せるとトラブルにつながる恐れがあります。

 

≪相続税≫

 

●相続関連業者

 

相続関連手続は大変専門的な要素を含んでおり、「税のみ」で解決できないことも数多くあります。そんなことから、税理士、弁護士、金融機関、不動産業者などが提携して「相続関連サービス」を提供していることがあります。

 

しかし、注意しなければならないことがあります。それは、「彼らの真意」です。「円満相続」や「後継者へのバトンタッチ」は「建前」で、「土地売買」や「優良貸出先の発掘」が本来の目的であることもあるからです。

 

「更地にしておけば相続税が大変です。賃貸マンションを建てましょう。融資の返済は家賃収入でまかなえますよ!」

 

相続税の典型的節税手法です。確かに節税できるかもしれません。しかし、入居者がなく売却もできないという状況になれば、残るのは借金だけです。1980年代のバブル期に大流行し、後のバルブ崩壊で悲惨な目にあった人が続出しました。しかし、「喉元過ぎれば・・・」「歴史は繰り返す・・・」で、今でも少し景気が上向くといつも流行します。

 

●誰に相談すればよいか

 

難しいことだと思います。相続には「お家の事情」や「相続人間の利害」が絡み、多くの人があまり表面化させたくないからです。しかし、何もしないわけにはいきません。そこで、次の手順によるのがよいと思います。 

 

○相続関連の書物を読む

書店の「法律」「税金」のコーナーには多数の書物が並んでいます。極めて平易に解説してある書物もありますので、それを購入してみることです。また、国税庁が作成している冊子も大変平易に解説されています。国税庁のホームページでも相続税についての説明をしています。

 

○国税局の電話相談を利用する

匿名の電話番号非通知でも質問に答えてくれます。当然無料です。身構えずに利用してみることです。

 

○税務署か税理士に相談する

以上からして明らかに申告しなければならない場合は覚悟を決めるしかありません。しかし、それなりの予備知識があれば税務署や税理士と有意義な会話ができることと思います。丸め込まれて(?)無駄な税金を納税することもないでしょう。

 

●弁護士に相談する(税理士に相続の全てを任せてはいけない)

 

税理士に「相続のすべて」を任すことは大変危険です!

 

相続には税以外の法的問題がともないます。特に次のような場合には、税務署や税理士のみでは解決できないこともありますので、弁護士に相談なさることをおすすめします。

 

○相続人が確定しない

○遺産の名義が不明瞭(権利関係が複雑)

○遺産分割の難航(各相続人の不仲)

○負の遺産が大きすぎる(相続人に多額の借金がある)

 

税理士は税務の専門家であって、法律の専門家ではありません。

 

納税者は税理士にすべての解決を期待し(税理士報酬とは別に弁護士報酬を払いたくない?)、税理士は納税者の期待のすべてに応えようとする(報酬が欲しい?見栄を張る?)傾向があります。しかし、これが取り返しのつかないトラブルに発展していることが数多くあります。

 

税理士試験には、「相続税法」という相続税についての税務処理能力を試す試験科目はあります。ただし、数ある選択科目の一つにすぎず、すべての税理士がこの科目に合格しているわけではありません。税理士試験には、相続そのものを定めた「民法」さらにはわが国の最高法規である「憲法」についての試験科目はありません。

 

税理士に「相続のすべて」を任すことは、大変危険であることを十分認識しておく必要があります。

 

●まったくの無知

 

平易な書物でもほとんど理解できないこともあるでしょう。その際は、いきなり税務署や税理士に「いくら払えばよいのですか」「とにかく税金を払いたくない」と相談しても相手にされません。まずは、身近な人で「知識」「常識」「見識」「良識」のある人に相談してみることです。公正で適切なアドバイスをしてくれると思います。ただし、「儲け話」や「節税方法」を教えてはくれません。

 

そして、決心がついたら税務署に相談に行ってみることです。相談窓口まで案内してくれます。相談係の署員が適法な指示をしてくれるでしょうからそれに従うことです。

 

●税理士への最初の相談でどこまで遺産の内容を教えるべきか

 

このことで悩む人が非常に多いです(この人を信用していいのだろうか・・・)。初めて税理士に相談するときは具体的な話をするのではなく、相続税の一般的な説明を受けるだけでよいと思います。「相続税の計算方法」「相続税の計算に必要な資料」「申告と納税の時期」など、今から踏むべき手続をわかりやすく説明してもらうことです。そうすれば、相続税に対する漠然とした恐怖心が払拭されるはずです。また、おおよその相続税額が浮かんでくるかもしれません。ほとんどの税理士は最初1~2時間程度の相談は無料で受けてくれます。

 

税理士を一番困らせるのは、最初の相談で自身の状況についての説明をほとんどせずに、「相続税額はいくらになりますか?」という結論を急ぐ人です。税理士はかたくなに口を閉ざします。

 

≪贈与税≫

 

●生前贈与(遺産の申告漏れ)の恐怖!

 

相続開始前3年以内に、相続人が被相続人から贈与を受けている場合には、その贈与を受けた財産を遺産に含めて相続税を計算しなければなりません。「亡くなる直前にずいぶんと財産の名義変更をしているので遺産は相当減りました!」と得意気に話す人がこのことを聞いて血の気が引いていく、あるいは激怒することがあります。生前贈与の処理は、相続税の申告に当たっての「最重要ポイント!」であるといっても過言ではありません。

 

贈与であるものを贈与に含めなかった場合には、遺産を過少に申告したことになります。遺産の申告漏れは相続税の過少申告に他なりませんので、税務署は黙ってはいません。

 

贈与について無知で無防備な人が非常に多いです。相続税の申告を引き受けるにあたって、税理士は必ず生前贈与についての説明をします。税理士に相続税の申告を依頼するにあたっては、生前贈与に関して公正かつ誠実な対応をしてくれるかを確認しておく必要があります。

 

●贈与になっていなかった・・・

 

「親の預金を形式的に子の名義にした」がその典型例です。

 

名義が子に変わっているだけで、名義変更後も「引き続き親がその預金を管理」している場合です。これでは贈与したことにはなりません。なぜならば、贈与は「あげましょう!」と「ちょうだいいたします!」であるからです。

 

贈与ではないわけですから、名義変更した時点で贈与税は課税されません。しかし、最終的には下記のとおり贈与税か相続税が課税されることになります。

 

○どこかでまとめて贈与税が課税される。

上記の例でいえば、子がこの預金を自由に使えるようになった時点で贈与となり、子に贈与税が課税されます。例えば、子が生まれてから毎年100万円ずつ親から子へ名義変更し、子が20歳になったときに名実ともに子の預金にした(子が自由に使えるようにした)場合には、その時点で2000万円(100万円×20年)の贈与になります。

 

○相続税が課税される。

上記の例で、子が預金の名義が自分に変更されていることを知らないまま親が死亡した場合には、その預金は親の遺産として相続税の対象になります。 

 

●親が所有する家屋に子の資金で増築をした場合

 

よく行われる方法です。このようなことが行われる背後には「親は土地と家屋を持っているが資金がない(無職なので融資が受けられない)」、「子には土地や家屋はないが資金がある(収入があるので融資が受けられる)」という事情があります。また、多くの場合は建築業者や金融機関がこの方法をすすめます。 

 

このような増築が行われた場合、増築部分の所有権は親が取得することになり「子から親へ」の贈与になってしまいます。贈与ですので、金額によっては親が贈与税を納めなければなりません。これを避けるには、増築前は親のみの所有となっていた家屋を、増築後はその一部を子の所有として登記しておく必要があります。このアドバイスは、誰もしてくれませんので注意が必要です。

 

●不動産を贈与しても登記をしなければ(遅らせれば)・・・

 

税務署が不動産の贈与が行われた事実を把握する手段のひとつが登記です。不動産の場合、贈与が行われても物件の外見に変化がないこともあります。例えば、親が子に贈与した住宅に、子が贈与の前後を通して住んでいる場合です。このようなケースでは、税務署が物件の外見から贈与の事実を把握することはできませんので、税務署は登記を手がかりに贈与を把握するのです。

 

そうであれば、「不動産を贈与しても登記をしなければ(遅らせれば)・・・」と考える人がいますが、そうはいかないのです。贈与に関しては、登記を遅らせても、登記が遅れていることの合理的な理由がない限り「登記があった時」に贈与が行われたものとして扱われます。

 

このように扱わなければ、いくらでも贈与税から逃れることができ、贈与税が相続税の補完税であることの意味がなくなってしまいます。贈与税は生前贈与により相続税を逃れることを補完するための税なのです。なお、登記を遅らせている(登記をしていない)不動産の登記上の所有者が死亡した場合、その不動産は死亡者の遺産として相続税の対象になります。贈与したことにはなっていないからです。