2022年10月14日

 

不動産所得の記帳は収入や必要経費の件数が少ないので比較的簡単ですが、個々の収入や必要経費の金額が大きく、その処理の判断次第で税額が大きく変わります。不動産所得のある人は常日頃からこの点に注意しておく必要があります。

 

●不動産の賃貸収入は税務署に把握されやすい

 

不動産所得の収入は税務署に把握されやすい仕組みとなっています。入居者がそこで事業を行っている場合には、自身がテナントとして入居している物件の賃貸人(家主)の「住所」「氏名」「賃貸料」「敷金」「保証金」などを税務署に報告する義務があるからです。入居者が一般人であっても、勤務先などを通して税務署に把握されることがあります。

 

●賃貸物件の取得価額(減価償却)

 

土地部分を除く物件の取得価額の決定は、以後の長期にわたる減価償却の計算に影響を与えることから非常に重要です。不動産所得の必要経費の大部分が減価償却費ですので、取得価額の決定は慎重にしなければなりません。土地と建物を一括して取得した場合は、取得価額を土地と建物に区分する必要があります。契約書にそれぞれの価格が明記されている場合にはそれに従いますが、明記されていない場合には時価などを手がかりにして自ら計算しなければなりません。

 

●取得するための付随費用の扱い

 

不動産業者の仲介手数料は取得価額に含めなければなりませんが、不動産取得税や登録免許税は取得価額に含めずに購入した年度の必要経費にすることができます。

 

●修繕

 

定期的な取替え(蛍光灯、畳や襖など)、破損による修復(割れた窓ガラスの取替え、災害の復旧など)に関する費用はそれらが生じた年度の必要経費になります。一方、物件の価値を高める工事(利用期間が延びる、機能向上により家賃がアップするなど)、たとえばエレベーターの新設、防犯カメラの設置などの場合には減価償却の対象としなければなりません。

 

●維持費用

 

「固定資産税」「事業税」「印紙(入居者との契約時に必要)」「火災・地震保険料」「消耗品(蛍光灯など)の取替費用」など、細かい出費もこまめに集計しておくことです。

 

●借入金利息

 

賃貸している不動産を借入金で取得している場合には、その借入金利息を必要経費にすることができます。この計算には金融機関が作成した返済予定表が必要となりますので、これを大切に保管しておかなければなりません。

 

●管理業者への委託

 

家賃の集金や物件の維持管理を管理業者に委託している場合には、このための費用である管理手数料を必要経費にすることができます。

 

●一括借上げ

 

いわゆる一括借上げの場合は、家賃から手数料が差し引かれて手渡されますが、不動産所得の収入は手渡される前の金額で、手数料は必要経費という扱いになります。

 

●取得の日と減価償却を開始する日

 

「契約をした日」「物件を取得した日」「賃貸を開始した日」がスムーズに説明できる必要があります。

 

不動産を「取得した日」が何時であるかは非常に重要です。なぜならば、減価償却を開始できる時期に関連してくるからです。既存の賃貸物件(マンション一棟など)の場合には引渡しを受けた日、自ら発注した新築物件の場合には完成時(通常は完成=引渡し)となります。この日付は登記や契約書の日付とは必ずしも一致しません。売主や物件の建築を請負った業者がこの日付について「我田引水」の主張をしてくる場合がありますが、そのような指示には従わないことです。

 

不動産を取得した日が「減価償却を開始できる日」になるわけではありません。減価償却は、「不動産の賃貸を開始した日」あるいは「入居者の募集を開始した日」からということになります。

 

●取得時の売買契約書は大切に保存(売却時の譲渡所得の計算に必要)

 

現在保有している賃貸用不動産を将来は売却する可能性も十分にあります。不動産を売却した際には「譲渡所得」となり所得税が課税されます。その計算は「売却収入-取得価額など」です。この算式の差し引かれる「取得価額など」の計算は、建物については不動産所得の確定申告における減価償却の計算、土地については購入時の契約書に明記されていた売買価額が計算根拠となります。建物の取得価額は不動産所得の確定申告を続けていれば一目瞭然ですが、土地の取得価額については契約書か購入時の領収書しか手がかりがありません。取得時の売買契約書は大切に残しておいてください。

 

●取得資金の出所(源泉)

 

賃貸用不動産を購入するには高額な資金が必要です。税務署が把握している、不動産を購入した人の過去の所得と財産形成の状況からして不自然さがある場合には、税務署は所得や相続・贈与の申告漏れについて密かに調査を開始します。

 

●消費税の申告と納税

 

不動産賃貸業の場合も、基準期間(2年前)における課税売上高が1000万円を超える場合には消費税の申告と納税が必要となります(前年の売上で判定されるケースもあります)。納税する消費税は入居者から受け取った消費税から、諸経費を支払った際に上乗せして支払った消費税を差し引いた金額です。通常は受け取った金額のほうが圧倒的に多いでしょうが、賃貸物件を取得した年は購入した建物の代金に多額の消費税が含まれていますので支払った消費税のほうがはるかに多くなります。

 

支払った消費税の計算をみなし計算することができる「簡易課税」という方法が認められており、これが有利ならば選択すべきです。賃貸物件が「住宅のみ」の場合には収入が1000万円を超えたとしても消費税の課税事業者にはなりません(住宅の賃貸料は非課税なので)。

 

【インボイス制度】

2023年10月1日から導入されます。制度導入後は「適格請求書発行事業者」でなければ消費税の請求ができなくなります。賃貸物件が「住宅のみ」である場合は非課税ですので影響がありません。しかし、「店舗」「事務所」「倉庫」「駐車場」は消費税の対象ですので、有利不利を検討したうえで適格請求書発行事業者(インボイスが発行できる事業者)の登録をしなければなりません。

 

●譲渡所得

 

売却の際に課税される譲渡所得は、「何時売るか?」「誰に売るか?」「売却して得た資金を何に使うか?」によって大きく変わってきます。ですから、物件の売却をする場合にはこれらを考慮して慎重に判断しなければなりません。

 

●今後の相続(贈与)問題

 

不動産は相続税が課税される対象となる財産です。不動産の状況や貸付先によって相続税額は異なってきます。残された遺族が、相続税の納税に苦慮し挙句の果てには大切な不動産を「叩き売り」しなくて済むように生前に手配しておく必要があります。生前贈与は税負担が大きいといわれていますが、方法によっては(相続時精算課税など)負担が少なくて済む場合もあります。