2022年10月14

 

会計を学び、会計を経営に積極的に取り入れようとする経営者が増えています。会計を知らずに企業を破滅へと追いやった経営者が多数いるからです。しかし、会計を学ぶ前に、会計の役割や法的規制など認識しておかなければならないことがあります。

 

●会計について

 

会計に興味を持ち、試算表や決算書を理解できるようになって、それを積極的に経営に活かしたいと考える経営者が増えています。大変よいことだと思います。1990年代にバブルが崩壊して以降、金融機関の不良債権問題、相次ぐ上場企業の破綻、大規模なM&A(業界再編)など、会計に深く関連した出来事が続き、今や会計を知らずして経営を語れない時代になっています。また、経営者は自社の決算書を金融機関の厳しい審査の対象とされていることから会計に無頓着ではいられません。会計を知らなければ資金調達さえできないのです。

 

会計の前提には複式簿記という記帳集計技術があり、それを一朝一夕に会得することはできません。会計は法律です(根拠は会社法や金融商品取引法)。宿命的に受け入れなければなりません。会計は、企業活動の結果を明瞭に表示しなければなりません。営業用のパンフレットやサイトのように都合のよいことを書き並べればよいのではありません。経営者が自社の決算内容について「ある種の願望」を持つのは当然でしょうが、その前に企業活動の結果が、「事実として」どのように決算書に反映されるかを知っておかなければなりません。

 

●財務会計と管理会計

 

一般的に会計は「財務会計」と「管理会計」に分類されます。

 

〇財務会計(決算報告、複式簿記による記帳)

法的な要請、すなわち会社法(すべての会社)と金融商品取引法(株式を上場している企業)に基づく、株主、債権者、投資家を対象とした決算報告制度です。決算報告は事業年度ごとに行われ(上場企業は1事業年度をさらに四半期に区切る)、複式簿記による記帳の結果作成された貸借対照表は事業年度末の財政状態を、損益計算書は事業年度を通しての経営成績を表します。財務会計に法的な要請がある以上、事細かなルールが存在し企業はこれを遵守しなければなりません。なお、税務申告(法人税)は、財務会計のルールに準拠して作成された決算書に基づき行わなければなりません(確定決算主義)。

 

〇管理会計

企業が管理や経営のために、その自由な意思に基づき行う会計です。その範囲は広範で、利益計画、資金計画、予算管理、投資の効率性計算など、企業の現在、過去、未来を様々な角度から計数を用いて検討や予測をします。

 

多くの経営者が不得手とするのは前者の財務会計であると思います。特に中小零細企業の場合、従来、財務会計は「税務署(法人税の計算)のため」に存在するかのように考えられていました。しかし、昨今の金融機関の融資審査の厳格化や多様化は、財務会計が軽視できないものであることを強烈に物語っています。

 

●財務会計ソフト

 

市販されている財務会計ソフト(あるいは単に会計ソフト)は財務会計のためのソフトで、目的は決算書とその根拠である総勘定元帳と試算表の作成です。

 

●財務会計と複式簿記を学ぶ

 

やはり一番手っ取り早いのは書物を読むことです。書店には会計関係の書物が多数あります。お奨めできないのは、「誰でもわかる」「簡単」などと題する書物です。その多くが結果的に誇大かつ不誠実な表現です。また、受験用(簿記検定や公認会計士試験など)の書物もお薦めできません。試験勉強はそのままでは実務に役立たないからです。

 

お薦めは一般ビジネスマン向けの入門書です。会計を習得するには技術としての「複式簿記」と、理論としての「会計学(財務諸表論)」の双方を学ぶ必要があります。両者の書物を一冊ずつ購入し、どちらか片方から、あるいは並行して読んでください。

 

なお、書物の著者は学者(大学教授)と実務家(公認会計士、経理業務経験者など)に大別されますが、前者は体系的(理念的)で後者は実務的であることが通常で一長一短です。できれば両方を読むことが望まれます。また、会計においては結論に至るまでのプロセスの説明が十人十色です。そんなことから著者との相性が大切であるのも否定できません。一通り読んでしっくりこない場合は、他の書物へ鞍替えすることも場合によっては必要です。

 

最近では、「連結決算」「特別利益・損失」「債務超過」「のれん」「減損」などの会計用語もすっかり一般化してきました。しかし、これらは入門段階ではあまり重要でありません。まずは、「取引」「仕訳」「勘定科目」「総勘定元帳」「試算表」「貸借対照表」「損益計算書」の意味や位置づけを学んでください。なお、学んだことと自社との関連の追求や願望の実現は当分お預けです。会計を本格的に学んだ人でも実務に慣れる(決算や申告ができ第三者にも説明ができる)には最低3年は要します。あせりは禁物です。

 

【財務会計の書物を選ぶにあたっての注意点】

財務会計に関する書物の全てが「財務会計・・・」と題しているとは限りません。下記の言葉で題された書物もありますので注意してください。

○決算書

「決算書の読み方」などと題する書物は、まずは企業会計の財務会計に関する書物です。

○財務諸表

財務諸表=決算書と考えて差し支えありません。

○企業会計(会社の財務会計を意味することが多い)

企業の大部分は会社ですので、「企業会計」といえば会社の会計(財務会計と管理会計)のことです。「企業会計・・・」と題する書物は、大部分の説明が企業会計の財務会計に関することです。

○会計

意味が広すぎますので、内容を十分確認してください。

 

●複式簿記のメカニズムを理解する(教科書で必ず説明されている)

 

昨今では財務会計ソフトで記帳と決算書作成をすることが当たり前になりました。財務会計ソフトでは複式簿記のメカニズムがブラックボックスになっていますので、財務会計ソフトで処理をしていては、いつまで経っても複式簿記が身につきません。

 

複式簿記のメカニズム(基本原理)は次のとおりで、複式簿記の教科書では必ず説明されています。

 

取引を仕訳にする(勘定科目に分類する)

勘定科目を試算表に集計する(そのプロセスが総勘定元帳)

試算表の勘定科目を貸借対照表と損益計算書に分割する(決算書を作成する)

 

これを理解するには、面倒でも複式簿記の教科書を読まなければなりません。そうでないと、特定の取引が決算書に与える影響を認識できず、いつまで経っても複式簿記や財務会計に無知であるという不安感を拭うことができません。

 

●到達すべき会計知識のレベル

 

簿記や会計の書物の内容が理解できるようになったならば、次は経理担当者や会計事務所に質問をしてください。まったくの入門から1年もたてば必ず成果が出てきます。特に、次のことが漠然と分かってくれば成果は十分ですので、もうそれ以上は学ぶ必要はありません。本業に注力してください。ただし、今後も自社の試算表や決算書を見ること、経理担当者や会計事務所とのコミュニケーションは欠かさないでください。

 

〇財務会計は会社の状態を良きも悪しきもありのまま表現する技術と理論であること

〇決算書を通して外部者は自社をどう判断するか

〇スムーズな事務処理(コミュニケーション)が決算作業の精度やスピードを左右すること

〇決算書を不明瞭にしてしまう原因の多くが経営者の独善や一部社員の無軌道な行動であること

〇会計は万能ではないこと(会計だけでは会社は繁栄しない)