2022年10月14日

 

個人事業者には、会社の代表者(経営者)の役員報酬のような考えはなく、個人事業者の取り分が経費とはなりません。この扱いに混乱する納税者が少なからずいます。

 

●会社(法人)と個人事業者の違い

 

会社と個人事業者では、算出する利益、つまり課税対象となる所得の計算方法が大きく異なります。

 

【会社の場合】

利益=売上-仕入-人件費と諸経費(人件費に役員報酬=経営者取り分を含む)

利益には「法人税」が、役員報酬には「所得税(給与所得からの源泉徴収)」が課税されます。

 

【個人事業者の場合】

利益=売上-仕入-人件費と諸経費(人件費に経営者取り分を含まない)

利益=事業所得に「所得税(確定申告が必要)」が課税されます。

 

個人事業者が経営者取り分(事業主)を引き出した場合、「事業主貸勘定」という「資産勘定」で処理し費用(必要経費)に含めません。

 

以上の算式からすれば、個人事業者で赤字(事業所得がマイナス)ということは相当業績が悪いということで、事業主の取り分がゼロあるいはマイナス(蓄えの取り崩し)ということです。よく、「よそも赤字(おそらく会社と考えられます)で申告しているのだから、うちも赤字で申告する」という人がいます。そのような人のほとんどが、会社と同じように事業主の取り分を差し引いて利益を計算しています。

 

上記のとおり、会社と個人事業者とでは利益の計算方法が大きく異なることから、長期間個人で事業を営んだ後に会社とした場合は役員報酬(源泉徴収)という考えになじめず、「俺の会社から俺の取り分を引き出すのにどうして税金がかかるんだ!!」という人がいます。やはり、会社を検討している場合は、早急に会社(法人)にすることが賢明です。

 

●必要経費がほとんどない(特定の業者に従属している場合)

 

「各種講師」「ライター」「デザイナー」「コンサルタント」「モデル」など、特定の業者に従属しているにもかかわらず、給与所得ではなく事業所得として申告しなければならない場合があります。このような業種・業態の場合、あまり必要経費は発生しません。したがって、収入のほとんどが課税の対象となってしまいます(給与所得ならば給与所得控除があります)。

 

●源泉徴収される業種

 

業種によっては支払いを受けるときに一定割合の所得税を源泉徴収されることがあります(デザイナー、講師など)。大変つらいかもしれませんが、これは拒むことはできません。源泉徴収された税額は、確定申告で算出された年税額から差し引くことができますし、年税額よりも源泉徴収税額が多い場合はその差額が還付されます。源泉逃れや徴収しないことの依頼は絶対に避けなければなりません。なお、ある程度の事業規模であれば源泉徴収されないで済む会社形態にすることも一法です。

 

●専従者給与

 

所得税の計算においては、「生計を一にしている」(ふところが同じ)親族に対しての給与は、原則として必要経費にできません。これは、親族への形式的な所得分散をすることによる所得税の負担減少を防止するためです。わが国の所得税はいわゆる累進税率を採用していることから、所得金額が上昇するにつれて税率も上昇します。これを避けるために所得分散は行われます。

 

しかし、生計を一にする親族への給与の支払いも経済的に合理性があるので(当然なので)、一定の条件のもとに必要経費とすることを認めています。なお、専従者給与(生計を同じくする親族への給与)を支払った親族については、その金額が配偶者控除や扶養控除の要件を満たす場合であっても、これらの控除を適用することはできません。

 

専従者給与は、青色申告の場合は上限がありません。しかし、「適正な金額」である必要があります。「適正な金額」とは、まったくの他人にでも支払う労働の対価という意味です。「適正な金額」を税務署に証明するには、労働したことの客観的記録(タイムカードなど)が必要です。「よそも渡している!」だけでは理由になりません。

 

●青色申告の特典

 

青色申告には様々な特典があります。主なものとして、青色申告特別控除(状況により10、55、65万円)、専従者給与(適正な金額が全額必要経費)、純損失の繰越控除(白色申告の場合は繰越せる損失の範囲が狭い)があります。白色申告をするのは、主婦の内職仕事など極めて小規模な事業で、青色申告の特典が無意味な場合に限られます。

 

「青色申告にすると記帳が厳しく税務署の思惑どおりに所得を把握される」とか「白色申告は記帳が不要」といった誤解がありますが、そのようなことではとんでもない目にあいます。 

 

●無料税務相談所の活用

 

確定申告の時期、個人事業者に対して税理士の無料税務相談が行われています。これを利用できるのが個人事業者の「特権」です。一方、会社(法人)の場合には、あらゆる疑問や悩みを自身であるいは有料で税理士に相談して解決しなければなりません。

 

無料税務相談所へ自分で下書きした申告書とその基となった諸資料を持参し、チェックしてもらうことです。細かなミスはともかくとして、基本的で多額なミスは指摘してくれます。大変親切に教えてくれますので是非ともご活用ください。なお、無料相談所では記帳や申告書作成はしてくれません。

 

●無料記帳指導

 

これも無料相談と並んで個人事業者の特権です。指導してくれるのは税理士で、1~3年間定期的に(3ヶ月に一度程度)訪問してくれます。体系的な指導を受けられますので是非とも活用してください。

 

無料税務相談や無料記帳指導は税理士の社会的使命です。これは弁護士の刑事裁判における国選弁護人と同様の趣旨です。ただし、税理士の無料相談や指導は国選弁護人のような法定されたものではありません。税理士業務はたとえ無償であっても無資格者は行えません(税理士の無償独占性)。無料税務相談や無料記帳指導は税理士の権益を守るための税理士のための活動なのです。遠慮せずに利用してください(税務署あるいは税理士会にお問い合わせください)。

 

確定申告書等作成コーナー(国税庁サイト)

 

これも個人事業者の心強い味方です!

会社(法人)向けにはこのようなコーナーはありません。

 

年々、機能と使い勝手が向上しています。画面の指示に従えば申告書が作成できます。ただし、申告書作成の前段階としての記帳(帳簿作成)はしてくれません。

 

●消費税インボイス制度(2023年10月1日より)

 

個人事業者の多くは税務署に消費税を納税する必要がない免税事業者だと思います(年間売上が1000万円以下)。しかし、販売代金には消費税を上乗せしています。

 

インボイス制度導入後は適格請求書発行事業者でなければ、販売代金に消費税を上乗せすることができません。免税事業者も適格請求書発行事業者の登録ができますが、登録をすれば課税事業者になり消費税の申告納税をしなければなりません。

 

「消費税を請求して納税をするか(課税事業者になるか)」

「消費税を請求しないか(免税事業者のままでいるか)」

 

免税事業者はこの選択をしなければならないのです。

 

なお、課税事業者であるからといって、受け取った消費税の全額を納めるわけではありません。仕入税額控除が認められるからです。免税事業者であれば消費税を受け取ることはできません。どちらが得であるから明らかです。